整形外科クリニック勤務5年目、私は衝撃を受けました。ある患者さんの話です。
その患者さんはSさん。クリニックの常連で肩の手術後でリハビリを受けていた80代のおじいちゃんです。転倒による受傷、入院生活もあり、筋力も体力も低下はしていましたが、当院までは歩いて来られ、頑張ってリハビリを受けていました。普段は奥さんと仲良く散歩や野球観戦もしておられました。
そんなある日、「お母さんが昨日入院した」と。
「わしはお母さんがおらんと何もできん、ご飯も洗濯も今までしてこんかった。今は孫が来てくれとるけど、申し訳ない」と。
それからSさんはどんどん弱っていきました。リハビリに来るたびに「わしはもう焼かれたほうがええんかもしれん」と弱気な発言をすることが増え、涙する場面もありました。リハビリに来ることが心の拠り所となり、治療中はずっとお話をしておりました。帰り際には「今日もありがと」と言ってくれました。それからも奥さんが退院することはありませんでした。励ましの言葉をかけながら、日々のリハビリを続けていきました。
その後、1人での生活がしんどくなり、介護保険を取得し、自宅での支援も受けることになりました。
介護保険を取得して、1ヵ月も経たないある日。
Sさんの突然の悲報。3日前まで見ていたその顔。急のことで何も考えられなくなったことを覚えています。亡くなった原因は転倒による頭部強打。肩の受傷時と同様の転倒によるものでした。
悲報を聞いて少し時間が経ち、冷静になった時、私の頭には悲しみより自分への不甲斐なさ、苛立ちのほうが強くありました。もっとこうしていればと。他の治療内容をしていれば転倒はしなかったかもしれないと。たらればかもしれませんが、後悔しかありません。もっと本気で患者さんの生活を、人生を考えないといけないと切実に思いました。